株式会社神田育種農場

『西瓜の栽培技術』 デジタル復刻

神田武著 『西瓜の栽培技術』のデジタル復刻について

本書は、弊社の創業者で、私(神田稔)の母方の祖父である神田武(先々代)が、1949年(昭和24年)に、「育種と農藝社」より出版した技術書です。

刊行の経緯については、巻末の「「育農シリーズ」の発刊に際して」に述べられていますが、陸軍中尉として従軍していたニューブリテン島から復員した後、当時の社長である瀧井治三郎様のご厚意により、タキイ種苗株式会社の長岡研究農場に育種技術者として勤務した縁で、同社内の「育種と農藝社」から本書の出版の機会を得ましたこと、更に、今回のデジタル化についても、快諾して下さいましたことを、タキイ種苗株式会社代表取締役の瀧井傳一様、並びに関係者の皆様に深く感謝申し上げます。

昭和24年といえば、敗戦から4年しか経っておらず、私の手元にあるオリジナルの書籍に使用されている紙も、品質の良いものではなく、酸化による傷みが目立ちます。しかしながら、現在、本書を所蔵している公的施設は、国立国会図書館のみであり、広く本書の存在を知っていただきたく、また、デジタル・データとして半永久的に保存するため、復刻に着手した次第です。

総発行部数は不明ながら、本書は、確認できる範囲で第9版まで版を重ねており、当時の生産者や技術者、関係者に広く読まれ、戦後のスイカ栽培に少なからず貢献した書籍であったと考えております。

まだビニールやポリなどのトンネルやハウスも、マルチもない、化学肥料もあまり普及していない露地栽培全盛期に書かれたため、本書には、現在ではあまり用いられない伝統的な技術や農業資材、肥料、農薬などを駆使した栽培法が、豊富な写真や表、イラストとともに詳細に説明されているところも興味深いものです。換言すれば、1949年当時の「スイカ栽培の最前線」が記録されているわけで、栽培マニュアルであると同時に、日本の農業技術史を研究するための資料としても価値のある著作物であると思います。なお、病害虫防除の項目には、現在では使用が禁止されている薬剤も紹介されておりますので、ご注意下さい。

栽培技術だけでなく、スイカの由来、主要品種の詳しい説明、更に、接木栽培や採種法に章を設けているところは、奈良県農事試験場にてスイカの純系やF1の育種開発に多大な功績を残し、「”スイカの神田”と農家の人に神様のように仰がれていた」【『栽培学批判序説』藤井平司著(農文協)P.172】著者の面目躍如でしょう。更に、著者は、タネなしスイカを世界で最初に開発した京都大学の木原均博士とも親しく、本書にはその理論的な解説等も収められております。

ご一読下さればわかりますように、戦時中、栽培が禁止されたスイカを再生させようとする著者の強い意気込みと、長年の研究生活と実践に支えられた知見が随所にちりばめられており、再読する価値のある刊行物であると確信しております。

最後に、デジタル化の過程についてご説明申し上げます。原書には旧漢字、現在ではあまり使われない漢字や熟語(「旱天」「花謝」など)、当て字、固有名詞の独特な表記等が非常に多く、また、文体にも読み辛い部分がありましたので、元の意味は変えず、現在の読者にもできるだけ読みやすいように、漢字の表記、句読点の打ち方、送り仮名、カタカナ表記等々を変更しております。しかしながら、著者の原文を尊重するため、一部の難読漢字や熟語にはふりがなを付け、度量衡については、部分的に、尺貫法にメートル法を併記しております。もし、意味が理解しにくい箇所があれば、それは私どもの責任であり、お詫び申し上げます。

このデジタル本に関するお問い合わせは、弊社宛にお願い申しあげます。読者の皆様からのご助言、ご指摘をお待ち申し上げます。

2017年11月

株式会社 神田育種農場
代表取締役 神田 稔

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